LOGIN1万人記念配信を無事終えてお風呂もすませたゆきは今とてつもなく悩んでいる。
今日は記念ということもあって激しめのダンスを披露したのだが、その時から少し違和感を感じていたことがお風呂で確信に変わってしまったのだ。
さすがにこれは自分の素顔のように隠したまま活動することはできない。なにしろ日常生活に支障が出てきてしまうくらいになってしまっているのだ。
「こういうのを相談できるのって……やっぱりまずはより姉だよなぁ……」
今日は幸い配信が終わってリビングに上がってきた時点で姉妹は全員部屋に戻ってしまっていたので誰にもバレずに相談することができる。
どのみち近いうちにバレることにはなるんだけどいきなり全員に知られるのは羞恥心が勝ってしまう。
いつまでもグダグダ悩んでいてもより姉が眠ってしまうだけなので意を決して立ち上がり、より姉の部屋の前に立つ。スッと深呼吸をしてからノック。
「より姉、まだ起きてる?」
「んー?起きてるよ、どした?」
ちょうどゆきの配信も終わって他に何かいいものがないか漁っていた最中だったので、見てたのがバレたのかと思いドキッとしたが、何食わぬ声で返事をする。
「うん、ちょっとね、相談したいことがあって……部屋に入っても大丈夫?」
配信を見てたのがバレないように少しだけ待ってと言い、一応アプリを別のものに替えて偽装工作だけはしておいた。
「どうぞ」と声をかけるといつも元気に入ってくるゆきがどこか恥ずかしそうに小さくなって入ってきた。
本当に何か悩んでいるみたいだ。それにしても珍しい。
基本的に完璧人間と言っていいゆきは何か困りごとがあっても人に相談することなど滅多にない。
その天才ぶりと持ち前の努力と根性で大抵の事は一人でどうにか解決してしまうのがいつものことだ。一流の人間は問題解決能力も一流なのかと思ったりする。
そのゆきがこんなに小さくなって相談してくるのだからよっぽどの事なのかもしれないと少し身構えて続きを促した。
「うん、ちょっとね……見てほしいことがあるんだ……」
常に快活に話すゆきがすごく話しづらそうにしている。長女としてこういう時くらいは頼りになるお姉さんとしてズバッと問題解決してやりだいもんだ。
そう思って横になっていた体を起こして聞く体制になるとおもむろに服を脱ぎだした。
「な……なにしてんだ!?相談って言ってもまだお前の歳ではそういうのは早いとお、思うぞ!」
「?……何言ってんの?ちょっと上半身を見てほしいんだけど……」
「じょ、上半身……?なんだ……びっくりした……」
「びっくり?何が早いの?」
本当に分かっていないゆきの反応を見て自分が汚れた人間になってしまったような気がした。
純粋な心で悩みを告白しようとしているゆきを前に少しの自己嫌悪に陥っているとやがて上半身裸になったゆきがこちらを向いた。
相変わらず見とれてしまうくらい美しい。でもそれがどうしたんだろう?わからないからそのまま聞いた。
「どうしたんだじゃなくてより姉の目から見てわたしの体に違和感ない?」
違和感どころかキレイすぎてうらやましいくらいだ。
透き通るような白さ、きめ細かい肌にモデルでも十分通用するだろうスレンダーな抜群のスタイル。
まさに芸術的とも言えるその彫刻のような体には思わず見入ってしまうほどだ。
「違和感っつってもなぁ。いつも通り肌はきれいだしウェストも細いし、胸だってうらやましいくらいの美乳じゃないか」
「……」
いつものようにニコニコしているゆきの笑顔なんだけど、心なしかこめかみがぴくぴくしているような気が……。ちょっと怖いですよ、ゆきさん。
違和感とやらが何なのかわからないでいるとゆきの声のトーンが少し上がった。「本当に違和感ない?」
ゆきってこんなに威圧感あったっけ?
やばい、これ以上怒らせると本当にやばい。ゆきのいう違和感の正体を見抜くんだわたし!
「肌……スタイル……美乳…………ん?美乳?え?膨らんで?」
「より姉……今本気でわたしの性別の事忘れてたでしょ……」
はい、完全に忘れてました。さすがに忘れてたなんて言うと本気で拗ねてしまいそうなのでそこは長女らしく華麗にフォロー。
「忘れてたわけじゃないぞ!ゆきがあまりにも完璧すぎて体のラインもキレイだから違和感を感じるのに時間かかっただけだよ。それだけゆきがかわいいってこった。ナハハ」
フォローになってるようななってないような。自分でも微妙なラインだと思う。
幸いゆきはへそを曲げることなく話を続けてくれた。よかった。
「べっつっに!性別を忘れられるなんていまさらだからべつにいいんだけどね!」
しっかり曲がってた。ごめんってば。
「いつ気づいたんだ?」
「違和感に気づいたのは配信中。今日のダンスは動きが激しめだったんだけど、ゆるめのインナーを着て踊ってたら、その……先っぽがこすれて痛くて……」
さすがに性的な部分ではあるから恥ずかしいのか、視線を逸らして顔を赤くしている。くっそ、我が弟ながらどちゃくそかわいい……。
「最初は胸筋が鍛えられて出てきたのかなと思ったんだけどお風呂に入ってよく確認したら胸筋とはまた違うなって……」
「いや明らか胸筋とはちげーだろ。もっと早く気づけよ」
「男なのにまさか胸が出てくるなんて想像するはずないでしょ!どうしよう……これなんかの病気なのかな……」
「病気ではねーよ。男性でも女性ホルモンってのは分泌されてるからな。その分泌量が多いと稀に男性でも胸が大きくなることはあるって前にテレビでやってるのを見たことあるぞ。」
「ホルモン……。自律神経のほうだね。わたしの場合神経系ならそういう異常があってもおかしくないか……。出てきてしまった以上引っ込めることもできないし、これどうしたらいいのかな?」
「ん~見たところBカップくらいはありそうだから薄着になったときなんかには誤魔化せるもんじゃねーだろーなー」
「サラシを巻くとか?」
「サラシは緩んだりしたら大変だろ。スポーツブラってのがあるから明日かわいいの買ってきてやるよ。明日一日は絆創膏でも貼って痛くならないようにしときな。」
「体育の着替えの時とかどうしようかな……」
「それはもう先にカミングアウトしとくしかないんじゃないか?ゆきは見た目から女性ホルモン多そうな感じだし意外とみんなすんなり納得してくれるんじゃねーか?」
「もう、他人事だと思って」
「こんなん隠し通せるもんでもねーし、開き直ってればいいんだよ。ま、着替えはトイレか空き教室でも借りるしかないだろうな」
しかし見れば見るほどキレイだ。決して大きくはないけどその曲線は完璧で細いウエストへと流れるラインは見ていてうっとりする。
いつまでも見ていたいくらいだけど、さすがに弟とはいえ異性の半裸を見ているのはこっちも恥ずかしくなってきた。
「ブラを買うのにサイズだけ測っておかないと。明日は午前中しか講義がないし、ゆきによく似合うとびきり可愛いブラを選んできてやるよ」
「普通のでいいってば!万が一誰かに見られたら変態だと思われるでしょ!」
「ゆきのことをそんなふうに思う奴いねーよ。せっかく持って生まれてきた素質なんだから、さらに努力をするのはかわいく生まれた人間の義務だぞ」
「いや、性別を考えてよ」
「性別なんて関係ない!かわいいは正義なんだよ!たとえ男でもかわいく生まれてきたんだから、もっとキレイになったっていいんだよ」
「かわいいものは好きだけど……限度ってない?」
「そんなもんあってたまるか。もっと磨きをかけるためにもゆきがVtuberを卒業して顔を出すようになったら衣装はわたしがとびきりかわいいのを作ってやるよ」
「より姉がデザインした服を着られるのは嬉しいな。じゃ、その時はいっぱいかわいくしてもらおうかな」
「まかせとけ!」
ゆきを着せ替え人形にできると思ったら今からやる気がでてきた。
磨けばいくらでも光る、何を着せても似合うような逸材だからデザイナーからしたらこんなやりがいのあるモデルなんて滅多に出会えない。
ましてやそれが弟なんだからやりたい放題だ、ウヘヘ。
「楽しみだけどあんまり過激なのはダメだよ。チャンネル消されちゃうし、ほどほどにね」
先に釘を刺されてしまった。ゆきは色気あるからついつい露出の多い服を選んでしまうもんですっかり警戒されてる。
「善処します」
「不安になる返答やめて。じゃあ明日はお任せしちゃうけどなるべく普通のやつでお願いね」
「へいへい」
「また適当な返事を……。でも今日は相談に乗ってくれてありがとう。けっこう不安になってたから助かった。また明日ね、おやすみなさい」
「かわいい弟の相談くらいいつでも聞いてやるよ。おやすみ」
それだけ言うとゆきは安心半分不安半分みたいな表情で出ていった。
善処するとは言ったけど約束したとは言ってないから何を選ぶかはわたしの自由だ。間違いなく文句は言われるだろうけど、なんだかんだ言いながらもわたしたちが買ってきた服は必ず着てくれるのがかわいい。
たださすがにエロいのは嫌だと最近はめっきりゆきの服を選ばせてもらえなくなってたから久しぶりにゆきのコーディネートができる、しかも下着ということでいやがおうにもテンションが上がってしまう。
ちなみに最近ゆきの服を選ぶのはもっぱら茜の役割になっている。
無口で無表情だからオシャレに無頓着と思われがちだけど実はうちの姉妹の中で一番センスがいい。
わたしのデザインにもよく意見をもらったりして、ほんとうちの妹弟はよくできた子ばっかりで嬉しい限りだ。
ゆき自身はやっぱり男の子だからかそこまで服に詳しくないので服を買う時は必ず誰かと一緒に買いに行く。
主に茜でたまにひよりといった具合。楓乃子が選ぶとフリフリの服ばかりを選ぶから恥ずかしいそうだ。
ちなみにわたしが選ぶのはエロイからと門前払い。
茜は長年ゆきの服選びを担当して少しづつかわいい服のコーディネートに慣れさせていき、ついにはスカートを履かせることにも抵抗をなくさせてしまった功労者、ゆきのかわいさをさらに引き立たせたMVP。
わたしもデザインの専門学生として負けてはいられない、いずれはゆきのコーディネーターはわたしの役割にするつもりだ。
2年後にやってくるゆきの素顔デビューに向けてゆきの美貌をさらに引き立たせるような衣装を作れるよう、気合入れて明日からも勉強に打ち込むぞ!
ホテルの部屋でお菓子パーティー。「それじゃ、女子会始めるぞ~」「「「いえーい!」」」 女子会じゃねー! ここに! 男の子が! いますから! 忘れんな!「まぁまぁゆきちゃん、見た目だけの話だから」 そうか、見た目だけならまぁ。 とでも言うと思ったか?「はい、ゆきちゃん」 かの姉にチョコレートを口に放り込まれた。うん、美味しい。「ゆき、餌付け」 違うわ。 まぁ甘いものを食べると大人しくはなるんだけど。これって餌付け? コンビニでかの姉の見つけたフルーツジュースが美味しそうだったので、いろんな味のものを買い込んできた。 わたしが最初に飲んだのはシャインマスカット。渋味のないブドウの味が爽やかで、あっという間に飲み干してしまった。おいちい。 ひよりもいよかんをすっかり飲んでしまっている。そんなに美味しかったのか。柑橘系好きだもんねぇ。 あか姉はパイナップル。普通のジュースなんだけどあか姉が飲むと独特だなぁと思ってしまうのはなんでだろう。 でも不思議なことにこのジュースを飲んでると、塩気の物がほしくなるんだよね。なんでだろ。 梨味のジュースを飲みながらより姉の買ってきたビーフジャーキーをガジガジ。普段はこういうものをあんまり食べないんだけど、体が塩分を欲しているような気がする。「ゆきちゃ~ん、なんだか気持ちよくなってきちゃった~」 そう言ってひよりがしな垂れかかってきた。なんか最近こういうシチュエーションになったことがあるような気もするけど、まぁいいか。楽しいし。 梨味のジュースもすぐに飲み終わり、次に手に取ったのは白桃。桃の味ってなんだか優しくて懐かしい気持ちになるよね。「こんなおいしいジュース初めてかも~。地元にも売ってるのかなぁ」 缶を眺めて商品名を確認。なるほど、日本のプレミアムということで産地の名前が記載されている。わたしが今飲んでる白桃は福島県産なのね。 震災から復興してる街を応援するためにもどんどん飲まないと。「わたしなんだか熱くなってきたかも。少し脱ごうっと」 女装して出かけていたのでインナーに来ていたのはキャミソール。「あははは。男の子なのにキャミソールって! おかしー!」 自分の姿が妙におかしくなってしまい大爆笑。なんだか気分もいいし、下も脱いじゃおう。「あははは! キャミにドロワーって! どこ
「ふわぁ~気持ちいい~」 フラフラのより姉。「あははは! よろこさん酔いすぎです~」 かの姉、あんたもだよ。誰だよろこって。呂律が回ってねー。 わたしがより姉に肩を貸し、かの姉にはあか姉が肩を貸している。ひよりにはお水と万が一に備えてのエチケット袋を用意させてある。「真っすぐ歩け酔っ払いども!」「あたしは真っすぐ歩いてるぞ~。道が曲がりくねってるのが悪いんだぁ」「そうですよねぇ。S字クランクが連続してます~。教習所ですかぁ?」 一般道だよ。道もこれ以上ないくらい真っすぐだよ。 酔っ払いどもをどうにか電車に押し込み、ホッと一息。Suicaくらい自分で出せっての。 電車内は人でごった返している。地元の球団のユニホームやメガホンを持った人が多いのは試合でもあったのかな? そういえば今年は成績が良くて、優勝も視野に入ってるんだっけ。野球はあんまり詳しくないから分かんないけど。「ちょっとより姉。ちゃんと立って。電車内で座り込んだらダメだって」 足に力が入っていないのか、放っておくとずりずりと沈み込んでいってしまう。「ゆき~だっこ~」 人がいっぱいの車内で何言ってんだ。「あれ、YUKIちゃんやん」「ほんまや。生で見たらめっちゃ可愛い」「やっぱり姉ちゃん達と仲ええんやなぁ」「YUKIちゃんって男の娘やろ? ハーレムやん」 ハ、ハーレム!? そ、そんな風に見えるのか? アラブの石油王じゃあるまいし……。「そうかな。どう見ても百合にしか見えやんよ」「確かに! 百合の園やわ」 ですよねぇ。知ってました。「そういやユニバのナイトショーに出てたんやろ? うちも見に行きたかったわぁ」「ほんまに? それは行きたかったな。またやってくれへんのかな」「急遽決まったみたいやし、無理ちゃうかな」 漏れ聞こえてくる情報からすると、先日のナイトショーは結構な評判になっているようだ。 またやって欲しいという声はありがたいけど……。「ゆきちゃんよかったね。好評だったみたいじゃん」「……そうだね。みんなが楽しんでくれたならよかったよ」「また、やりたいんじゃないの?」「ううん、そんなことないよ。あの日一日で十分だよ」 わたしは本当に嘘つきだ。本当はステージに立ってみんなに歌声を届けたい。 だけど、わたしにはその機会は永遠に訪れることはないんだ。「ゆきちゃ
スイーツ巡りを堪能した後、腹ごなしも兼ねてあちこちを散策して回った。 普段はあまり行かないゲーセンでリズムゲーをしたり、ボーリングやビリヤードで体を動かして消化を促す。 三時間もする頃にはお腹が空いてきた。「もう腹減ったのかよ。どんだけ胃腸が丈夫なんだ」「健康優良児と言ってくれるかな」「まぁいいけどよ。それで、何を食べたいか決めてあるのか?」 今日出かける前に、それぞれ何を食べたいかを決めておくようにと言われている。 わたしもいろいろ探してたんだけど、さすが大阪。食べたいものがいろいろありすぎて困っちゃう。「わたしはまだ決めきれてない……」「なんだ、いつも率先して決めるゆきにしては珍しいな」 だってどれも美味しそうなんだもの。「わたしはお好み焼きが食べたいです」「またかよ! 楓乃子は昼にも食べてただろうが。どんだけ粉もんが好きなんだ」 わたしも一口もらったし、お好み焼きはどっちかというとお昼ごはんにでも食べたいかな。「もつ鍋」「相変わらず選択が渋いな、茜。たしかに美味そうだな」 もつ鍋は候補に入ってなかったけど、確かに美味しそう! 悩みが増えてしまった。「わたしはね! 串カツが食べたいなー!」 それそれ! 大阪といえば串カツだよねー。でもてっちりとか、居酒屋で土手焼きなんかも美味しそうなんだよね。「ひよりはあたしと同じだな。それで、ゆきはどうする? 今のところ串カツに二票だが」「うーん、うーん」「どんだけ悩んでるんだ。ちなみに候補はいくつあるんだ?」「居酒屋てっちりもつ鍋串カツかすうどんイカ焼き中華肉吸いたこ焼き……」「待て待て待て。いくつ出てくんだよ。呪文みたいになってるじゃねーか」 体がいくつも欲しい。「ゆきの候補にもあったし、二票入ってるし、串カツにするか。ゆきも別に文句はねーだろ?」 あの呪文をちゃんと聞きとってたのか。より姉もやるな。「もちろん! ソースは二度漬け禁止だからね」「それくらい知ってるっての。全体をひたひたに漬けて食べるんだろ」 より姉のことだから何度もじゃぶじゃぶ漬けるんじゃないかと心配だったけど、それくらいは知っているようだ。「それじゃ、さっそく向かおうか! お店はあたしが探してあるからよ」 おぉ、より姉がリーダーシップを発揮している。 さすが長女、頼もしい。 わたし達は
「うん、美味しそう!」 ずらりと並んだ多種多様な食べ物。 普段あまり口にすることのないいろんな料理を前にして、期待を隠せないわたし達。 わたしが注文したのはボタニカリー。 鶏がらスープに玉ねぎ、野菜、スパイス、ハーブが煮込まれていてスパイシーで美味しいし、副菜がアートのように盛り付けられている。 より姉はシンガポールチキンライス。 かの姉はお好み焼き。 あか姉はキーマカレー。 ひよりはハラミ重と黒毛和牛フィレステーキ トリュフがけ。「ステーキはみんなで食べようね」 そう言って購入しようとしているのはいいけれど、お値段がべらぼうに高い!「ちょっとひより、お小遣い大丈夫なの?」「そろそろなくなりそうだから、ゆきちゃんに借りないとダメかも」 そう言って苦笑いするひより。苦しいなら無理してステーキなんて注文しなくていいのに。「だってみんなでシェアするもの欲しいじゃない」 そんな可愛らしいセリフを言われては止めることもできない。 もう、みんなのことを考えてくれるのは嬉しいけど、やりすぎだよ。「そのステーキはわたしが買うから。ひよりはこの後に行くデザートでお金を使いなよ」「そんな悪いよ。わたしが勝手に買おうとしてるだけなんだし」「みんなのためでしょ? わたしもみんなと食べたいから買うだけだよ」 みんなで食べるものを末っ子に負担させるというのもなかなかに目覚めが悪い。 ここは一番経済力のあるわたしが出してもみんなから異論は出ないだろう。「ゆきちゃん、ありがとう」「いいんだよ。どれも美味しそうだね」「うん!」 元気よく返事をするひより。ほんとに良い子だ。 フィレステーキも含め、みんなでシェアした料理を堪能してお昼ご飯の時間は過ぎていった。「さて、いよいよ今日の本番だね!」「昼飯食ったばっかじゃねーか。もう食べ歩きすんのか?」「もちろん! 時間は有限、甘いものは別腹! 時間の許す限り食べつくすよ!」 すでに候補は三つほど見繕ってある。あとは観光がてらにあちこち探し回るのもいいだろう。 ということで最初に向かうはハービスプラザ四階にあるチョコレート専門店。 わたしはショコラパフェ、ひよりはチョコラータケーキ、あか姉はタルト・オ・ショコラ。 より姉とかの姉はハーブティーのみ。「せっかくスイーツを食べに来てるのにもったい
大阪旅行も半分を過ぎてしまった。 明日にはもう帰りの電車に乗っているのかと思うと、少し寂しいものがある。考えてみればいろんなことがあったな。 たくさんのことがありすぎて、まだ四日目だというのが信じられないくらい。もう二週間近く経ったような……。そんなわけないよね。 今日はいよいよ食べ歩きの日……なんだけどまだみんな眠っている。 とっくに朝ごはんの時間は過ぎており、誰も起きる気配がないので一人で食べに行った。 なんでこんなことになったかというと。「はい、ひよりさん、茜、お茶入れましたよ」「あ、かの姉ありがと。ん? なんだか変な味のするお茶だね」「これは……おいしい」 かの姉が淹れたのはただの烏龍茶のはずなんだけど。変な味のする烏龍茶ってなんだろう。 まぁみんな機嫌よく遊んでるし、わたしもテレビを見ていよう。 と、思っていたんだけど。 しばらく時間が経って。「あはははは! なんだかわかんないけどおかしー!」「えへへへへ。ひよりご機嫌」 いや二人ともご機嫌になってるし。何があった。「ゆきちゃ~ん」 突然ひよりが飛びついてきた。めっちゃ懐いてくるし。って酒くっさ!「ちょっとかの姉! 二人に何飲ませたの!?」 犯人はやつしかいない。さっき飲ませてた烏龍茶に何かあるはずだ。「わたしは依子さんが作ったお茶を二人にお渡ししただけですよ~」 なんだかいつも以上にフワフワした感じで応えるかの姉。この状況で嘘をつくとは考えにくい。 となると下手人は決まったようなものだ。「より姉?」「なんだよ。あたしは楓乃子が飲むと思ってウーロンハイを作ってやっただけだっての~」 やっぱりお酒じゃねーか! しかも微妙にどっちが悪いと決めにくい状況にしてやがる。狙ってるのか?「そんなことよりゆきも飲めよ~」「未成年に勧めるなって前から言ってるでしょ! 飲ませるのも犯罪なんだからね!」 ほんとにこの酔っ払いどもめ。あか姉とひよりも出来上がってしまったのか、上機嫌で笑っている。何が可笑しいのやら、ちょっと怖い。「さっきのお茶もっと欲しい」「あか姉はそれ以上のんじゃダメだってば!」 おかわりをせがんでくるあか姉を阻止。ひよりも飲みたそうにしてるけど、ダメだからね。 だけど初めて飲んだお酒はなかなか体から抜けないのか、その後もしばらくどんちゃん騒ぎ
大阪滞在三日目。 昨日までのテーマパークを離れ、今日はまず水族館にやってきた。「でっかーい!」 ひよりがジンベエザメを見て歓声を上げる。「ジンベエザメは魚の中で一番大きい生物だからね。飼うのが難しいから、日本でも三カ所かでしか見られないんだよ」 全て西日本に集中していて、東日本では見ることが出来ないらしい。 しかも残りは鹿児島と沖縄だから、東日本から見に来ようと思ったら大阪が最寄。「ん? 一番大きい魚はクジラじゃねーのか?」「え?」「お?」 おいおい、マジか。「より姉、クジラは哺乳類だって知らないの?」「そうなのか? じゃーサメも哺乳類なのか?」 サメは魚だって言ってんでしょうが。「サメは卵で子供を産むんだよ。キャビアとか知ってるでしょ。卵じゃなくって子供をそのまま産むのが哺乳類。母乳をあげる動物だね」「水の中で産むのか。溺れねーか?」 どこまで本気なんだろう、この人。「もともと水の中に住んでるんだから大丈夫だよ。まぁ母乳は海水中に出して、赤ちゃんは海水ごと飲むらしいけどね」「マジか。しょっぱいミルクだな」 だから海水の中に住んでるって言ってんだろ。四六時中しょっぱいわ。 意識してるのかわかんないけどちょいちょいバカを発揮してるよなぁ。 会話が聞こえてしまったのか、周囲の人がくすくすと笑っている。ちょっと恥ずかしい。「次行こうか。ほら、あっちにクラゲの水槽があるよ。わたしクラゲ見たいな」 より姉の腕を取って連行。バカなことばっかり言ってないで、幻想的な光景を見て心を洗ってください。「おぉ。クラゲだ」 そのまんまやんけ。 もうちょい他にないのか。「ほらほら、半透明でキレイでしょ。触手には毒があるけど、見てる分にはキレイだよね」「まぁキレイと言えばキレイだが。……こいつらがいる意味ってなんだ?」 また身も蓋もないことを。「ぷかぷかと漂ってるだけだろ。ちゃんとメシ食ってんのか」 クラゲをじっと見つめてご飯の心配をしてあげる女性の図。プランクトンとか教えても「どこに口があるんだ」とか言いそう。「ずっとふよふよしてるだけで気楽そうだな。何のために生きてるんだろうな」 クラゲの生きてる意味を真剣に考える人なんて初めて見たよ。 彼らには脳がないからそんなことを考えることもないんだろうけど。 生きてる意味か。